財政赤字を出してはいけない本当の理由は、自分たちの子どもや孫、あるいはそれが誰であれ、未来の納税者に私たちが今やりたいことの請求書を付け回すことがフェアではないことにあります。国債を長期化させながら借金の返済時期を先送りすれば、今の世代は増税や歳出カットを回避できます。しかしそれは将来世代への借金のツケ回しになってしまいます。
赤ん坊が生まれた瞬間に、前の世代が作った国の借金を背負わされてしまう現象を財政的幼児虐待と呼ぶそうです。急速に人口が減少していくわが国の場合、先行きの1人あたりの虐待度は自ずと大きくなってしまいます。それが酷くなるにつれ、才能ある若い人々が日本を捨てて出て行く恐れが出てきます。
日本政府の借金は、2001年時点ですでに高水準でしたが、この2020年でさらに膨張しています。カッコ内には実質経済成長率が記載されていますが、この20年間に日本はこんなに財政資金を使ってきたのに12%しか成長していません。対照的に、アイルランド、スイス、スウェーデン、台湾は、政府債務の水準が遥かに低いのですが、その経済規模比を縮小させつつも高成長を遂げています。IT系やバイオ系産業の目覚ましい伸びがそれらの経済を牽引してきています。
スウェーデンの人々は、財政規律に非常に厳しいものがあります。国債を安易に発行していたら必ず破綻が来ると、彼らは信じているからです。財政支出を抑制するため、高齢者への延命治療は原則行われていません。そこまでして確保した貴重な財源は、人材育成など生産性向上につながる分野に戦略的に投入されてきています。この20年間の実質賃金の伸び率は、日本は0%ですが、スウェーデンは37%です。
この20年間で見ると、東日本大震災やコロナ禍など危機対策を除けば、社会保障への支出が圧倒的に増え続けています。高齢化に伴って急増してきた医療費や年金への補助に財政が使われており、経済の競争力を高めるための戦略的な資金投入は行いづらくなっています。このまま安易に国債を発行していくと、財政的幼児虐待の問題が先行き深刻化してきます。
(Wedge vol.34 No.4 2022)
(吉村 やすのり)