親が育てられない赤ちゃんを匿名で預け入れる国内唯一の施設である「こうのとりのゆりかご」は、運用開始から10年になります。2007年5月に開設以来、2016年3月末までに125人が預け入れられ、養父母の家庭や児童養護施設などで育てられてきました。市の検証報告書によると、125人は、生後1カ月未満の新生児が多数で104人を占め、1年未満の乳児14人、1年以上の幼児7人の男女です。父母らの居住地は、北海道1人、東北3人、関東22人、中部11人、近畿10人、中国8人、四国1人、九州39人、国外1人、不明29人で、全国に分布しています。
預けた理由は、多い順に生活困窮32件、未婚27件、世間体・戸籍24件などです。母親の年齢では20代が36%と最も多く、30代が約22%と続き、10代も12%と少なくありません。預け入れ後の行き先は、乳児院など施設が30人、特別養子縁組が29人、里親が19人、元の家庭が18人です。
ゆりかごを巡っては賛否両論があります。望まない妊娠や生活困窮などに悩む女性らの受け皿となる一方、安易な預け入れにつながる、子どもの出自を知る権利を奪うなどの批判もあります。熊本市は現在のところゆりかごを母子を守るといった観点から支援していますが、一自治体と一民間病院のレベルで語られる問題ではありません。一日も早く法整備を進め、関係機関による切れ目のない支援を行う必要があります。
(2017年5月10日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)