母親のおなかの中で育つ胎児を超音波により観察できるようになり、周産期医療は目覚ましい発展を遂げてきています。超音波が胎児をみるのに使われ出したのは1970年代頃です。超音波は空気中で減衰しますが、水中で良く伝わります。それが羊水の中を漂う胎児の観察に応用されました。最初は骨が白く浮かび上がるだけでしたが、軟らかい組織も含めて観察できるようになった1980年代頃から、国内では一気に普及しました。
最新の超音波装置では、胎児をリアルタイムで立体的に表示することもできます。寝ている時以外は、子宮の中で目を開けたり、不快そうな表情を浮かべたり、しゃっくりをしたり、せわしなく動いている様子がわかります。胎児の病気の多くは、生まれてからの治療で良くなります。しかし、中にはそれでは間に合わず子宮内で死亡したり、大きな障害が残ったりすることもあります。胎児をみる技術の発達で、産婦人科医や小児外科医が協力して、子宮内で治療を施す胎児治療の研究が進むようになってきています。
その代表的なものが、胎盤を共有する双子の胎児で起こる双胎間輸血症候群の治療です。双子の場合、一つの胎盤に2人分の血管がつながっていることがあります。その血流のバランスが崩れると、血液を余分にもらった胎児は全身がむくんで心不全などに、もう一方は発育不全などになり、子宮内で両児とも死亡するリスクがあります。そこで、子宮内に内視鏡を差し入れて観察しながら、血管がくっついた部分をレーザーで焼き切りますが、臨床試験で、少なくとも片方の胎児が生き残る確率が5割から9割にあがることが示されています。
(2020年1月27日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)