遺伝子治療とゲノム編集

遺伝子治療は遺伝子を外から補う治療法です。約30年前から臨床研究が行われていますが、近年、効果や安全性が高い治療法が開発されています。ウイルスなどで遺伝子を細胞内に運び入れますが、遺伝子がDNAに組み込まれるタイプと組み込まれないタイプがあります。しかし、狙った場所に遺伝子を組み込めません。
一方、ゲノム編集を使えば、狙った場所に遺伝子が組み込め、細胞分裂で複製されるため、成長中でも効果の持続が期待できます。しかし、切断されたDNAが自然に修復する際、加えた遺伝子が組み込まれる割合は1%程度です。また、違う場所を切断してしまうオフターゲットの懸念もあります。そこで、より安全性が高い体外でのゲノム編集治療も注目されています。患者から幹細胞や免疫細胞などを取り出し、遺伝子改変できた細胞のみを患者に戻します。従来の遺伝子治療でも行われていますが、ゲノム編集なら効率よくできます。
日本はこの10年、iPS細胞(人口多能性幹細胞)に研究者と予算が集中しすぎたこともあり、遺伝子治療は大きく出遅れています。遺伝子治療、特にゲノム編集には大きな可能性がありますが、オフターゲットなどの懸念もあります。患者に異変が起こらないかどうかを長期的にケアする仕組みも必要です。

 

(2018年5月13日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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