乳がんや卵巣がんなどにかかりやすい体質が、親から子へ遺伝することがあります。遺伝性腫瘍の多くは、細胞ががん化するのを防ぐがん抑制遺伝子が生まれつき変異し、十分に働かないのが原因とされています。主な手掛かりは家族や親族に発症者がいるかどうかによります。乳がんや卵巣がんが多ければ、いずれかを発症する遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の可能性があります。まずカウンセリングで同様のがんが家系内でどうか分布しているかなどを詳しく確認します。疑いが強まれば、変異を調べる遺伝子検査を提案します。変異があれば定期的な検診でがんの早期発見につなげ、患者が望めば発症リスクを減らすための乳房切除や卵巣摘出を行う場合もあります。
これら遺伝性腫瘍を地域ぐるみで診療するネットワークが各地で広がってきています。まだ遺伝性腫瘍に詳しい医師が少なく、遺伝子検査や予防的な手術などを手がける医療機関が限られるためです。医師は遺伝性が疑われる患者を、カウンセリングや詳細な検査ができる別の病院に紹介します。切除手術などが必要なら実施できる別の病院に依頼します。地域全体で一つの病院になることが目標です。遺伝の可能性をいかに早く発見し、予防につなげるかが大切です。しかし、リスク低減のための手術は、現在のところ医療保険の対象外です。
(2016年4月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)