量子センサーは、原子レベル以下の極めて小さい量子の世界で起きる物理現象を産業応用する量子技術の一種です。量子技術の代表格として量子コンピューターが知られています。量子センサーは、温度などを従来とは桁違いの高い感度で測れるのが特徴です。量子科学技術研究開発機構は医療分野への応用を目指しています。細胞の中で起きる様々な現象は、熱の発生や酸性度の変化を伴います。細胞内の変化を細かく観察すれば、病気を超早期に捉えられる可能性があります。
微量の窒素を含むダイヤモンドでできた量子センサーを使って、細胞の温度変化をきめ細かく計測することに成功しています。窒素の近くには特殊な構造があり、周囲の環境変化によって電子などの量子状態が変化します。この構造は緑色のレーザー光を照射すると、赤く光ります。レーザー光を一定の強さで照射し、電子状態が変化すれば赤い光の強度の変化として捉えられ、蛍光強度の変化量を計算すれば温度などが分かります。
これまでの研究で病気の細胞と正常な細胞の温度に差があることが分かっています。病気の細胞の中でも、それぞれの温度などをより詳しく研究すれば、病気の悪性度の分析や薬の効果の予測に役立つと期待されています。
内閣府が2023年にまとめた量子未来産業創出戦略では、2030年に国内で1,000万人が量子技術を使えるようになることなどを目標にしています。量子センサーは生命科学分野以外でも応用が期待されています。
(2025年8月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)