集団免疫の獲得

日本では、平時から流行を抑えるための定期接種と、緊急の必要がある場合の臨時接種があり、新型コロナのワクチンは後者です。定期接種は、大勢が接種して病気の流行を防ぎ、集団免疫の状態を作ることを目指すA類疾病と、個人の健康を守るB類疾病に分かれます。A類にはポリオやジフテリアなどが含まれ、B類には高齢者が接種する季節性インフルエンザがあります。
ワクチン接種が進んで流行の拡大が起こりにくくなった状態は、集団免疫と呼ばれます。これまでわが国では、ポリオ、はしか、天然痘などの感染症で集団免疫に至っています。しかし、完全に流行が収まるわけではなく、変異したウイルスの出現で再び流行が広がる恐れもあります。
どれだけの割合の人が接種を受ければ集団免疫の状態になるかは、何も対策をしていない状況でウイルスが1人の感染者から何人に感染せる能力を持つのかを示す基本再生産数や、流行状況の数理モデルから算出できます。新型コロナの基本再生産数は2~3とされ、人口の6割がワクチンを接種すれば、集団免疫の状態になると計算できます。こうした集団免疫のしきい値には、実際に接種するワクチンの有効率の違いも影響してきます。
ある地域が集団免疫の条件を満たしても、即座に流行がやむわけではありません。接種が進んでも依然として免疫を持っていない人はいて、免疫を持たない人の間で感染の連鎖が続きます。集団免疫の成立には、新型コロナに対する免疫がどの程度持続するのかも影響します。はしかではワクチン接種や実際の感染によって得た免疫が生涯持続するとされますが、インフルエンザをはじめとした喉や肺などの呼吸器官に感染するウイルスでは、一般的に免疫の持続期間は数年程度とされています。
ウイルスへの感染やワクチンで一度獲得した免疫が消失する場合には、新規感染者数はゼロにはならず、小規模な増加と減少を繰り返しながら一定規模の流行が続くことになります。しかし、流行を完全に防げなくても、ワクチンによって重症化を防ぐことができます。

(2021年3月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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