給与所得には、累進制で住民税も含めて最大55%の税率がかかります。しかし、株式の配当や売買にかかる金融所得課税は、一律20%(所得税15%、住民税5%)です。富裕層は金融所得を多く持つ傾向があり、年間所得が1億円を超えると所得税の負担率は下がります。
2019年時点では、所得が5,000万円超~1億円の層の所得税負担率は27.9%でした。1億円を超えると徐々に下がり、10億円超~20億円だと20.6%、100億円超だと16.2%になってしまいます。政府は、金融所得課税の見直しを年末の2022年度税制改正で議論する方針です。現在20%の税率を一律で引き上げる案や、高所得者の負担が重くなるよう累進的に課税する案を検討します。しかし、日本は米欧に比べて富裕層への富の偏りが小さく、家計が保有する金融資産も株式などは多くありません。仮に税率を一律5%引き上げた場合は、数千億円の税収増になります。
しかし、日本では、家計に占める株式・投信・債券などの割合も16%弱にとどまっています。米国は55%強を占めており、増税効果も日本は限定的とみられています。約2,000兆円ある日本の家計の資産のうち、半分は現預金となっており、貯蓄から投資への流れを促してきました。税率引き上げによる税収増の効果と、市場への影響などを見極めて判断する必要があります。
(2021年10月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)