10兆円規模の大学ファンド

日本の研究力低下が止まらない状況を改善するため、政府による10兆円規模の大学ファンドが本格的に動き出します。科学技術立国の推進を掲げ、国内大学の研究力を世界レベルに高める切り札と位置づけます。ただ対象は数校に限られ、世界のトップ大学に迫るのは簡単ではありません。2022年内にも大学の公募を始め、2023年度には数校を国際卓越研究大学に選ぶ見通しです。5年以内に年間3,000億円の運用益を生み出し、1校あたり年間数百億円を支援する計画です。
日本の研究力を巡る現状は厳しいものがあります。文部科学省によれば、指標となる被引用数がトップ10%に入る注目論文の数は、主要7カ国で最低の10位です。順位の急落は特に2000年代の半ばから顕著です。その間に、世界2強を占める米国や中国は多額の科学技術予算を投じており、横ばいの水準の日本との差は開く一方となっています。
ハーバード大学やエール大学など米国の名門私立大学は、3兆~4兆円を超す規模のファンドを運営しています。企業などからの寄付金も豊富に集めています。英国でもオックスフォード大学やケンブリッジ大学は、数千億円規模の基金を運営しています。一方、日本は主要大学でも数十億~数百億円の水準にとどまっています。日本政府は、米英をモデルとして、ファンドによって資金の新たな循環を生み出し、大学の成長を目指す戦略です。
ファンドで直接支援する対象は一握りです。大学格差が比較的少ないドイツと比べると、日本では東京大学や京都大学などのトップ層は比較的強みを持っていますが、中間層の弱さに課題があります。ファンドによる支援対象が数校にとどまれば、国内上位層と中間層の格差がより一層広がる懸念が出てきます。

(2022年4月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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