医の倫理について考える―Ⅲ

医の倫理に対する考え方
 医の倫理に対する考え方は二つに大別される。一つは「アメリカ型のバイオエシックス」ともいわれ、インフォームド・コンセントを徹底して、自由主義の原則を医療倫理に適用しようという考え方である。この場合、自由主義の原則とは自己決定権に制限を加えることができるのは他者危害の原則のみであるという立場である。アメリカでは価値観が多様化しており、自己決定や幸福追求権という概念を掲げ選択の自由を認めている。もう一つは「ヨーロッパ型のバイオエシックス」とも呼ばれ、アメリカ型の自由主義の原則には限界があるとして、医療に関する実用的なガイドラインを作成し、社会的コンセンサスを優先させるという考え方である。人間の行為に対しては、自己決定権だけでは規制できないような事例があり、一定のルール作りが必要であるとする立場である。
 わが国は現在、生殖医療に関する法やガイドラインをもたず、日本産科婦人科学会をはじめとする生殖に関連する学会が、ガイドラインともいうべき自主規制の見解を出しているだけである2)。そのためどのような医療行為が行われたとしても、施行した医師が法によって罰せられることもなく、不利益を被ることがないのが現状である。医療倫理の観点からは、わが国はどちらかといえばヨーロッパ型のバイオエシックスの道を志向していると思われるが、これまでわが国の産婦人科医師はごく一部を除いて、学会の会告を遵守する形で生殖医療に携わってきている。

(吉村 やすのり)

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