希望出生率1.8のもつ意味

 第三次安倍改造内閣は、経済に子育て支援や社会保障を加えた新3本の矢を打ち出し、一億総活躍社会の実現に向けて動き出しました。この目標に掲げられた3本の矢は首相が述べているように、いずれも最初から設計図があるような簡単な課題ではありませんが、いずれも達成しなければならない目標とすべきです。この3本の矢の中で達成の道のりが最も険しいのは、希望出生率1.8であると思います。
 1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率は、2014年が1.42です。出生率1.8という数字は1984年以降到達しておらず、30年前の水準です。人口が減少しないための人口置換水準は2.07ですが、若いカップルが希望する子どもの数は1.82人であることより、希望を叶える出生率としての1.8が掲げられました。これまで少子化危機突破タスクフォ-スや少子化社会対策大綱の具体化に向けた検討会などでも、この3年間にわたりさまざま対策が取り上げられてこられました。子育て支援や働き方改革の強化、さらには結婚・妊娠・出産支援などが緊急対策として挙げられていますが、財源の目途が立たずに有効な手段とはなり得ていないところがあります。
 医療費の自己負担や所得税などでは、高齢者は現役世代に比べて優遇されています。所得や資産にゆとりのある高齢者を対象に年金などの給付を減らすような制度改革は避けられません。それに伴って不要となった財源を使い、大胆な子育て支援を展開するといった歳出構造の抜本的な見直しに踏み込まなければなりません。2009年には出産育児一時金が38万円より42万円に増額され、妊婦健診は14回まで公的助成されるようになりました。こうした妊娠・分娩の経済的な負担の軽減により、2005年に1.26と最近であった合計特殊出生率は、2013年に1.43まで回復しました。この事実は、妊娠・分娩時の経済的問題を含めた不安要因の解消により、出生率の低下をある程度阻止できることの証左となると考えます。
若いカップルに少子化なのだから、子どもを授かりたい方は是非どうぞと言っても出生率が上がるとは思えません。少子化対策の財源を確保しながら、医療など社会保障を徹底的に効率化するのは待ったなしの状況にあります。少子高齢化と経済のグロ-バル化が進むなか、成長力と財政健全化の両立という日本経済の最大の課題を忘れてはなりません。

(吉村 やすのり)

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