遺伝カウンセリングについての一考察

遺伝カウンセリングとは、ユネスコのヒト遺伝情報に関する国際宣言(2003)で「健康に関わる重要な意味を持つ可能性がある遺伝学的検査を行おうとする場合、当事者が遺伝カウンセリングを適切な方法で受けられるようにすべきである。遺伝カウンセリングは非指示的であり、文化的に適合したものであり、かつ当事者の最大の利益と一致したものであるべきである。」とされている。

遺伝カウンセリングでは、クライエントがよく理解した上で、その遺伝的問題に対処できるように医学情報を提供し、クライエントが親となることへの目標に到達できるように援助することが要求される。遺伝カウンセリングは遺伝情報の伝達が大きな柱となるが、今回の新型出生前診断においては、医学的援助だけではすべてを解決することはできない。クライエントが生きてきた生活史や疾患や障害に対する考え方、家族の力動など様々な側面をアセスメント(見立て)し、心理・社会・倫理的な側面にも配慮しながらクライエントを支えていくことが必要である。

今回の新型出生前診断は、21-、18-、13-トリソミーの染色体の数的異常を診断するための遺伝学的検査であることを考慮すると、遺伝子変異を伴う遺伝性疾患に対する遺伝カウンセリングとは少し異なった様相を呈し、より心理的援助が必要とされる。遺伝カウンセリングの心理的援助では、その問題の答えを探すのではなく、クライエント自身がその問題のなかに生きていこうとする主体性を考えることが大切となる。

新型出生前診断における遺伝カウンセリング後、検査を中止した人がわずか12名(0.8%)のみであったことを考慮すると、カウンセリングにおける心理的な援助が十分であったかという疑問が残る。もし必要とされる心理的援助がなされていたとするならば、カウンセリング後検査を中止するクライエントはもう少し増えてもよいのではないか。この数の増加は遺伝カウンセリングの有用性を示す一つの指標となりうると思われる。またどうして遺伝カウンセリング後検査を受けることを中止したかの理由の検証も必要である。一方で、この新型出生前診断を受けたいと思うクライエントは、検査を受けることを既に決定しており、遺伝カウンセリングを受けてもその意志を変更しないのかもしれない。多額の費用を出してまでも検査を受けるということを考慮すれば、当初より検査ありきのクライエントが多いと予想される。

臨床研究においては、実際にどのような遺伝カウンセリングがなされたかについても検証されるべきであろう。

(吉村 やすのり)

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