米国立心肺血液研究所は、大規模研究で高血圧治療は最高血圧120未満を目標にすべきだとする報告を出しました。日本の治療指針が定める140未満より大幅に厳しい目標値を求める内容であり、医療現場に波紋を広げています。2014年に改訂された日本高血圧学会の治療指針では、若年者・中年者の治療目標は、従来の130未満から140未満に緩和されました。ところが、今回の米国立心肺血液研究所の発表によれば、最高血圧を120未満に下げると、心不全などの発症を大幅に抑えられるとの研究成果をまとめています。
今回の研究は、50歳以上の血圧が高く、心筋梗塞などのリスクのある約9400人が対象でした。血圧を120未満に下げる患者と、140未満に下げる患者の2群に分け、平均で3年余り追跡し、比較しています。その結果、120未満にした患者の方が、心不全や心筋梗塞、脳卒中などの発症率が低く、死亡リスクが27%低かったことを報告しています。心不全の発症率は、120未満ではでは5.2%、140未満では6.8%でした。さらに死亡率は、120未満が3.3%、140未満が4.5%でした。死亡は、120未満にした方が90人当たりで1人少なくなる計算になります。
一方、急性腎障害などの発生率は、120未満の方が4.1%、140未満の2.5%より高くなっています。血圧の低下により、腎臓の血流が減りすぎて障害が起きた可能性があります。一律に、120未満を目指すことには慎重になるべきとする意見もあります。特に、高齢者は持病や健康状態の個人差が大きいため、日常診療では個別に対応する必要があります。
(2015年11月19日 讀賣新聞)
(吉村 やすのり)