陽子線治療の有効性が確認されている代表的な疾患は、前立腺がん、肝がん、頭蓋内腫瘍、頭頸部腫瘍、肺がんなどの塊状の腫瘍です。最近、早期の乳がんを対象に、陽子線治療の臨床研究が始まりました。現在は、外科手術で切り取るやり方が主流ですが、この陽子線治療が実用化されれば、心臓が悪くて手術できない人や手術をしたくない人にとって、新たな治療法の選択肢になります。
水素の原子核である陽子を、特別な機械で光速の70%ほどまで加速させたうえで、病巣に当ててがん細胞を死滅させます。エネルギ-量を調整でき、がん細胞を狙い撃ちできる利点があります。一方、X線は比較的広い範囲にダメ-ジを与える特徴があります。乳房の後ろにある心臓や肺などに障害を及ぼすおそれがあります。難点は、治療費が高いことです。厚生労働省の先進医療に認められているので、入院費や検査費は公的医療保険が使えますが、300万円前後を自己負担しなければなりません。
(2015年12月11日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)