生命倫理への問題提起―①
エドワ-ズ博士は、ヒト体外受精の成功に遡ること20年程前より、ヒト受精の基礎研究を開始していた。ヒト卵胞卵の体外成熟、初期胚発育、胚盤胞の作成など、着々と実績を上げていた体外受精研究に対し、当初からロ-マ法王庁は人権に対する挑戦行為であると痛烈な批判を浴びせていた。公式見解として否定的立場を取ったのは、1987年3月に公表されたロ-マ法王庁の公式文書「生命誕生への尊敬心と出産の尊厳に関する指示書」においてである。「人間の生と死の運命をつかさどるのは神である。・・・中略・・・試験管内で育った受精卵は既に生命を宿しているにもかかわらず、科学的物体として処理される。これは無防備な人間を殺すのに等しく、神の領域の侵犯行為である。良心を持たない科学は人類に滅亡をもたらすだけである。」と述べ、現代医学の発展を人類の進歩と位置づける科学者に厳しい警鐘を鳴らした。もとより、この指示書の公表に至るはるか以前、体外受精の方法論の開発段階、つまり世界初の体外受精児の出産に至る研究段階から、法王庁は強い否定的見解を表明してきた。
(吉村 やすのり)