40年前をふりかえり、今憶うこと

 1975年は、私が大学卒業した年である。その頃現在のような少子高齢化社会の到来をまったく予想できていなかった。高度成長期で、かつ人口増加が進んでいた時期でもあり、人口問題についてあまり多くが語られたという認識がなかった。しかしながら、3040年前の厚生白書において「高齢化社会への軟着陸を目指して」と述べられていることからも、医療技術の向上もあり高齢化の方向性や直面する課題も少なからず議論されていた。高齢者は予想以上に増加したにもかかわらず、2010年の128053人をピークに、人口は急激な減少過程に入っている。これには想定をはるかに超える少子化が大いに関与している。
 少子化に伴う出生率の変化は、その社会のしくみ、若い人々の人生観や価値観に大いに左右される。多様な価値観による家族形態も大いに変容する。若い世代に結婚や子どもを持ちたいという希望があるのなら、早く結婚して子どもを作るべきだと主張するだけでは、出生率の上昇は望めそうにない。これまで政府が取り組みを進めてきた待機児童解消加速プランなどの子育て支援の充実に加え、子どもの教育に対する経済的支援が大切となる。
 大都市圏における出生率の低さを考慮すれば、地方から大都市への若者の流出による東京一極集中に歯止めをかけることが大切となる。若者の雇用対策、定住促進のための関連政策との連携など、都市と地方のそれぞれの特性に応じた少子化対策に、国と地方自治体、都道府県と基礎自治体がそれぞれ連携し一体となって取り組む必要がある。そのためには、まず若者にとっての妊娠・分娩環境を整えるための地方独自の取り組みが必要となる。安心・安全な周産期医療の確立なくして地方における若者の定住を望むことはできない。
 高齢化問題は社会的にも重要視され、多額の税金が投入されているが、少子化対策とその背景にある女性の健康問題はこれまで軽視されてきた。出生率を回復させるためには、高齢者への給付に偏っている社会保障財源の配分を見直し、女性の健康と子どものための支援を充実させることを考えなければならない。産婦人科医は、女性の健康を全人的に支援し、その幸福を追求するプロフェッションであり、女性と子どもへの投資が将来の社会保障制度の支えを増やすことに繋がることを、国民に丁寧に説明する役割を担っている。女性が心健やかに子どもを産み、安心して子育てや教育ができる成熟した社会の実現なくして加速化する少子化の流れを断ち切ることはできない。
(吉村 やすのり)

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