生殖医療を考える―Ⅳ

生殖医療のもたらすもの―①

 これまでの生殖補助医療は、受精・着床といった生命現象の分子メカニズムの解明を待つことなく、臨床現場の不妊症に悩む夫婦からの切実な訴えに支えられることによって、実験的医療とも考えられる数々の試みが実施されてきた。現在の生殖補助医療の中核を担う体外受精・胚移植法も、この過程から生まれてきたといえる。しかしながら、生殖医療は他の医療とは異なり、世代の継承に関与しており、その治療結果が個体にとどまらず人類に継承されていくという特殊性をもっている。
 生殖医療において忘れてはならないことは、クライエントが希望し医療者が施術を提供できれば医療行為として成立するが、生殖医療においては他の医療とまったく異なり、新しい生命の誕生があることである。たとえ自己決定に基づく生殖医療であっても、生まれてくる子どもの同意を得ることはできないことを、まずもってクライエントも医療提供者も十分に認識しておく必要がある。また最近になり、着床前遺伝子診断や配偶子提供、さらには代理懐胎など、これら技術による新しい医療への臨床応用が試みられるようになり、これらは胎児の選別、親子や家族という社会の枠組みを改変させるかもしれない問題を提起するようになってきている。
(吉村 やすのり)

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