生殖医療を考える―Ⅹ

生殖医療の法的問題―①

 わが国においては生殖補助医療に関連する法規制はまったく存在せず、日本産科婦人科学会の見解に委ねられている。学会は体外受精・胚移植を含む生殖補助医療に関する様々な見解をだしてきた。医療技術の進歩や時代の変化に呼応し、2006年以降、様々な会告の改訂を行っている。これらの会告は、生殖補助医療の適応や実施医師や施設の要件、インフォ-ムドコンセントなどを含んでおり、臨床実施の基盤となっている。しかしながら、学会は学術親睦団体であり、医療における施術の管理を行う組織ではない。そのため法的権限もまったく存在しないことより、違反行為に対して適切に対処することは困難である。
日本産科婦人科学会の見解は、わが国において生殖補助医療実施にあたって事実上のガイドラインとしての役割をはたしてきた。これらの見解には法的な裏づけがなく、しかも学会が生殖補助医療を実施するする医師に見解を遵守させる仕組みを持っていない。これまでわが国の生殖補助医療において、一定のガバナンスを発揮し、有効な手段として機能してきたが、これらの見解は生殖医療に携わる医師の立場から作成されたものである。生殖医療は医療だけの問題ではなく、人の生命観、家族観、倫理観など多くの問題を包含しており、見解の作成にあたってはクライエントの人権、生まれてくる子どもの福祉、その社会的環境など、様々な観点からの検討が必要となる。
(吉村 やすのり)

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