幼保一体化

 幼児の教育制度史上、最大の変更を伴う制度改革である子ども・子育て支援新制度が、平成274月にスタートしました。制度設計が完全に行われないまま施行を急いだため、有効に機能しているとは言えない状況にあります。新制度の当事者である、幼児の保護者、幼稚園・保育所・認定こども園の事業主、そして市町村の当該担当者を始めとする現場は、膨大な事務量のため混乱の極みにあります。子育てをめぐる課題の中で従来から最大のものは、保育所の待機児童問題です。保育園の待機児童問題が叫ばれる中、幼稚園は20155月時点で定員に対し67万人分空いていることから、幼保一体化の考え方が生まれました。
 子ども・子育て支援新制度の最優先課題が幼保一体化でした。両者は役割も開園時間も異なっているため、待機児童の解消に幼稚園を有効利用できないかということで考えられた制度です。幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省がそれぞれ管轄しています。縦割り行政の無駄を無くし、既存施設と人員を有効活用して、幼児教育の充実と待機児童の解消を狙っています。新制度の下で保育機能を持つ認定こども園に幼稚園が移行すれば当初の思惑も実現できましたが、私立幼稚園の約6200園は新制度に移行していません。16年度以降の移行を計画・検討中の園も2割前後にとどまっています。
 新制度が幼稚園の保育園化であるとすると、認定こども園が市町村所管の幼稚園になれば、施設に対する指導監督が保育所に対してと同様に行われることになります。そのため、入園する園児を選抜することができなくなり、幼稚園の経営や運営を含めた自由が奪われることになり、幼稚園にとってのメリットがなくなってしまいます。いま一度幼保一体化のメリットを考え直すのは、政府や自治体の役目です。
 国が新制度の導入を急いだのには理由があります。女性が結婚と出産のために就業を断念すれば、現在の労働力人口が減少します。就業のために結婚と出産を断念すれば、30年後の労働力人口が減少し、年金制度が破綻し、国家存続の危機に陥ります。「働きなさい。しかし産みなさい。子どもは社会で育てます。」と言われても、「はい、そうですか。」と言えない現実があります。

(吉村 やすのり)

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