健康な女性を対象に、将来の出産に備えた卵子凍結を行う医療機関が増えています。悪性腫瘍の治療にあたり、卵子を凍結保存しておく医学的な卵子凍結に対し、これは社会的卵子凍結と呼びます。読売新聞の調査では、この凍結を実施している施設が全国に少なくとも23あり、40歳代の女性3人が凍結卵子を使って出産していたことがわかりました。卵子は、加齢とともに質が低下し、不妊の原因になります。日本産科婦人科学会の報告によれば、体外受精1回当たりの出産率は35歳で17.2%、40歳では8.3%、45歳以上では1%以下になります。晩婚化を背景に、卵子の凍結を希望する女性は増えています。
凍結すれば卵子の老化はおこりませんが、卵子の質には差があり、全てで移植できる受精卵を作れるとは限りません。加えて卵子凍結する人の大半が35歳以上であることを考えると、出産の確率はさらに低くなります。子どもを望む思いは尊重されるべきですが、高齢出産のリスクや子育てにかかる年月を考えれば、やはり医学的に適切な時期に出産することが望ましいことは言うまでもないことです。
千葉県浦安市と順天堂大学浦安病院は、市内の20歳~34歳の女性を対象に、卵子凍結が少子化対策に有効かどうかを調べる研究を実施しています。市は研究に年間3000万円を補助し、卵子を凍結する女性の費用負担は通常より抑えられています。若い時期の卵子の凍結は、選択肢の一つとして考慮されることは否定できませんが、何よりも大切なことは女性が子どもを持ちたいと考えるならば、その望みを叶えてあげることです。卵子凍結をしなくても、子どもを持ち育てられるような社会的支援がより重要です。
(2016年3月26日 読売新聞)
(吉村 やすのり)
アーカイブ
カテゴリー
カレンダー