医薬品の代わりに細胞や組織などを投与して、病気や怪我で傷ついた部分を修復する再生医療は、大きく広がることが期待されています。再生医療には、もともと体の中にあり特定の細胞になれる体性幹細胞を使う治療や、あらゆる細胞になれるiPS細胞から目的の組織を作って移植する試みなどがあります。
経済産業省の予測によると、2012年には100億円にも満たなかった国内市場は、2020年から急伸し、2030年には1兆310億円に延びる見通しです。2050年には2兆5458億円に達すると推測されています。まず2020年までに患者の太ももの細胞で作ったシートを使う心不全治療や、患者自身の細胞による軟骨損傷の治療などが上市されると予測されています。また理化学研究所が一昨年に臨床研究を実施した、iPS細胞から作った網膜の細胞を用いる治療の可能性が開けるとも言われています。しかしながら、現在このように多くの臨床研究がなされていますが、医療として臨床的意義が認められた研究成果は、今まで残念ながら報告されていません。また、安全性の根拠も検証もされていません。市場規模の拡大だけが顕著ですが、実用化の目途は立っていないのが現状です。
(2016年4月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)