出自を知る権利に関する一考察 Ⅲ

第三者を介する生殖補助医療を実施されるようになると、さまざまな親が存在することになります。一方、卵子や精子の提供によって体外受精で生まれた子ども、夫婦の配偶子であるが代理懐胎によって生まれた子どもには、出自を知る権利が生じます。卵子の提供においては、母との遺伝的繋がりはありませんが、子どもは妻自身が生むことになります。代理懐胎においては、他の女性が子どもを生むことになりますが、子どもは自分の配偶子によって生まれており、遺伝子的な繋がりがあります。そのため、これらのケースにおいては、子どもの出生の真実を告知しやすい状況にあります。

 出自を知る権利を考える際、最も難しいケースが非配偶者間人工授精(AID)です。日本においても60年以上も前から実施されており、この医療技術により既に15,000人以上が誕生していますが、ほとんどのケースで子どもに出生の真実を知らされることなく実施されてきました。これまでは医療者、クライエントともに匿名性を守り、子どもに知らせないことを前提としてきました。しかしながら、最近になりAIDで生まれた子ども達のアイデンティティーの喪失など、悲痛な訴えを聞くにつれ、子どもへの告知の必要性が重要視されるようになってきています。AIDは歴史も古く、他の生殖補助医療と異なり簡単に実施できますが、親子関係を含め多くの問題を含んでいます。

 AIDのあり方についての再考が必要な時期にきていると思います。
Ⅳにつづく

(吉村 やすのり)

 

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