講演の要旨は以下のとおりです。
治療から予防へのパラダイムシフト
わが国は世界の国々が経験したことのない未曾有の超少子化・高齢化社会に突入した。わが国の女性の平均寿命が85歳を超えて久しく、高齢女性の健康問題が医学的のみならず、社会経済学的にも大きな関心となっている。特に男性と比較して女性の寿命は長く、女性のヘルスケアを充実させ、自立して一生を過ごせる期間(健康寿命)をいかに長くするかが大きな使命となる。高齢女性に特有な疾患である骨粗鬆症、高血圧、脂質異常症、糖尿病などは、閉経や手術などによる卵巣機能廃絶と深い関連があることが明らかとなっている。従来よりこれら疾患は更年期医学の対象であり、診断や治療的側面が重要視されていた。これらの疾患は不可逆的ではあるものの、適切な予防的・医学的介入の必要性が強調されている。 近年、閉経期後に急増する疾患は、閉経期後ではなく、より若年期からの介入により予防することが可能であると考えられるようになり、治療から予防へのパラダイムシフトが起こっている。この結果、思春期から性成熟期・更年期を経て、老年期に至るまでの女性の一生を通じて行う予防医学の確立が、直面する高齢化社会においては医療経済的見地からも重要なヘルスケア対策といえる。さらには世界のいずれの国も経験したことのない未曾有の超少子化社会の対応も女性医学の担う重要な責務と考えられる。 高齢化社会における女性診療に産婦人科医が積極的に参画することが、今求められている。これまでの専門性に特化した周産期医学、婦人科腫瘍学、生殖内分泌学の補いきれなかった領域を補完し、それぞれの専門領域を有機的に結合させるのが女性医学である。女性医学は内分泌学を基礎とした性差を考慮した医療でなければならないことより、産婦人科医が担うべき学問領域である。まさしく、女性医学は女性ヘルスケアのための予防医学といえる。