将来、子どもにAIDの事実を話すかどうか、いわゆる告知については2000年の調査時には告知を積極的に考えている父親は1%にすぎませんでした。子どもにとって、「出自を知る権利」は
保障されるべき大切な権利であることは十分に理解できますが、現実的に父親が子どもに告知できるかどうかが重要な鍵となっています。父親がAIDを希望した理由は、子どもが好きだから、生活に張りが欲しいからなど多数を占めます。子どもが出生してからの不安に関しては、子どもの外見が自分と似ていないのではないか、精子提供者の検査は確実か、父親として愛情を持ち続けられるかなどが多くを占めていました。
卵子の提供による妊娠においては、子どもを産んだ女性は自分の卵子ではありませんが、子どもを自分で産んでいるため、告知には抵抗がないかもしれません。しかし、AIDによる妊娠においては、父親は子どもの誕生に生物学的に何の関与もしていないため、子どもの誕生から成長する過程において精神的に大変な苦痛を伴うことが予測できます。生まれた子どもからは父親からの告知がなかったことで責められることが多く、父親は大変苦しい立場に置かれています。さらに父親にとっても一生出生の真実を隠し続けることは大変な苦しみです。このような状況を避ける意味でも、父親からの積極的告知が必須となります。最近の調査では、約1割の父親が子どもに対し告知を考えている状況にまで変化してきます。
現在、慶應義塾大学病院では、クライエント夫婦に真実告知の必要性や生まれた子どもの出自を知る権利について十分な説明を行った上で、実施するようにしています。
(吉村 やすのり)