幼児教育無償化に憶う

 現在、幼児教育と高等教育の無償化や負担軽減が衆議院議員選挙の論点になっています。日本の幼児教育への支出に占める公的財源の割合は44%に過ぎません。OECD(経済協力開発機構)加盟国平均の83%を大きく下回っています。全ての子どもが、幼いころから教育を受け、学ぶことは楽しい、自分も頑張ればできると思えるような社会にすることは、将来の大学進学や就労にもつながるはずです。幼児教育に投資することにより、教育を受けた子どもが、将来仕事に就くことができて税収が増え、生活保護などの会保障に充てる費用が減るといった効果があるといった研究成果が、海外で報告されています。
 スウェーデンでは1990年代から2000年代にかけ、幼児教育の無償化が進められました。1990年代は経済危機によって貧しい家庭が増え、保育料の地域格差も広がりましたが、親の就労状況や所得などにかかわらず、全ての幼児に教育を受ける権利を認める法律ができました。これらの改革は少子化対策にも有効だったとされており、合計特殊出生率も2前後まで回復しました。
 一方、わが国では、保育料はすでに応能負担の考え方で、世帯所得に応じて減免されていて、生活保護世帯の保育料は無償化されています。そのため、幼児教育を疑問視する考え方もありますが、第2子、第3子を希望する場合には、保育料の無償化は少子化対策としても効果的であると思われます。この際、無償化には所得制限をかけるべきではないと思われます。受益者を低所得層にしぼると、中高所得層の支持を得られず、制度が安定しない可能性が出てきます。まずは全員が恩恵を受け、その後に中高所得層から所得税として回収することもできます。その際、児童手当のような現金給付ではなく、現物給付にすべきです。全ての子どもたちの能力を伸ばし、働ける存在にして、税金を納めてもらうという長期的視野に立った発想が必要です。
 少子化を食い止める喫緊の課題は、0~2歳児に資源を集中してまず待機児童の解消に努めるべきです。そのためには保育士の確保が必須です。幼児教育や保育の場合、給与水準が低いために、優れた人材を集めることができません。幼児教育・保育の質の向上と、そのための待遇の抜本的な改善を、無償化と並行して進めることが必要となります。保育の質が高まれば、安心して子どもを任せることができ、女性がより働きやすくなります。

(吉村 やすのり)

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