厚生労働省の審査部会は、がんの治療で取り出した腎臓を、別の腎臓病患者に移植する病気腎移植について、条件つきで先進医療として認めることを決定しました。実施施設は治療の経過などを厚生労働省に報告する義務があり、国の仕組みのもとで実施されることになります。病気腎移植は、宇和島徳洲会病院などで泌尿器科医師らが実施していたことが2006年に判明しましたが、関連学会が安全性に問題ありなどと否定し、厚生労働省は臨床研究以外の実施を禁じました。
徳洲会側は、移植する腎臓が不足し、患者のために必要として、2009年12月から2016年5月の間に17例の臨床研究を実施、2016年6月に先進医療として病腎移植を申請していました。部会では、説明文書や治療経過のチェック体制の整備が進み、安全性や妥当性に大きな問題はないと判断しました。安全性については、徳洲会側はこれまでの臨床研究で移植した腎臓でがんが再発したことはないと報告しており、欧米の実施例でもリスクは低いとされています。先進医療の計画では、患者にリスクを説明、理解を得た上で、移植からの5年間にがんが発生するかどうかを調べることになっています。ドナーの対象年齢も20歳以上から50歳以上に変更され、対象となる範囲が狭められています。
一方で、病気腎移植が前提とする全摘出のケースは、技術革新とともに減少してきています。この10年でがんを部分切除する技術は進歩してきており、2016年には手術支援ロボットによる7㎝以下のがんの部分切除が保険適用されています。腎がん患者は、糖尿病や高血圧を合併することも多く、全摘した後の病腎を移植することにより、腎不全のリスクが高まる可能性も否定できません。良性腫瘍との区別ができずに全摘されてしまうことや、移植患者ががんになるリスクも完全には否定できません。今後も患者の安全性を第一に考え、移植後の厳重な予後の検証が必要となります。
国内では腎臓透析患者が30万人以上おり、移植を希望する患者も1万人を超えています。しかし、提供数は不足しており、臓器提供者が現れるまで10年以上待つケースも多くなっています。
(2017年10月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)