京都大学のグループは、患者由来のiPS細胞を用い、認知症で最も多いアルツハイマー病で患者の脳にたまる特定のたんぱく質を減らす効果がある薬を特定しました。アルツハイマー病の原因は明らかではありませんが、患者の脳にアミロイドβというたんぱく質が発症前からたまることが分かっており、蓄積を減らせば発症を抑え、治療につながると考えられています。
グループは、患者の皮膚などから作ったiPS細胞を使って大脳皮質の神経細胞を作り、病気を再現しました。患者9人と健康な4人の大脳皮質の神経細胞を使い、1,258種類の既存薬からアミロイドβを減らす効果があるものを探しました。その結果、パーキンソン病、ぜんそく、てんかんの治療薬という3種類の併用が最も効果が高く、患者でアミロイドβが作られる量を平均30%以上減らすことができました。発症前から服用すればアミロイドβが作られるのを抑えて発症を予防できると考えられます。
現在、iPS細胞は再生医療と創薬に使用されています。患者由来のiPS細胞を用いることで、iPS細胞を神経や筋肉などの病気の細胞に育て、アルツハイマー病などの病態を試験管内で再現できるようになりました。ALS(筋萎縮性側索硬化症)や遺伝性の難聴、肥大型心筋症などでも薬の候補が見つかっています。アルツハイマー病も含め、治療の難しかった病気で創薬の成功率が上がると期待されています。
一方、再生医療でも実際の患者に移植する段階まで来ています。目の難病加齢黄斑変性の患者に、iPS細胞から作った網膜の細胞を移植する手術が行われています。2018年以降はパーキンソン病や脊椎損傷、心不全などの患者に対してもiPS細胞を使った治験や臨床研究が始まる予定です。
(2017年11月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)