下顎は頭の骨から筋肉でつり下げられた特殊な骨格です。この下顎は人が立っている時に体の傾きを察知してバランスを取る、いわば姿勢制御センサーの役割を果たしています。重さが約5㎏の頭と、頭から筋肉でぶら下がっている約1㎏の下顎は、常に体の上部でともに揺れながらバランスを取っています。しかし、口の中で上顎の歯と下顎の歯が引っかかったりぶつかったりしていると、頭と下顎のスムーズな揺れを妨げて、頭のバランスが崩れてしまいます。
頭がふらつくと、元に戻すバランスが機能せず、転倒することもあります。首など各部位をひねることで全身のバランスを取ろうとします。その結果、緊張を強いられた筋肉にコリが生じたり、関節に負担がかかって痛みや運動障害の原因になったりします。頭と下顎の滑らかな揺れを妨げないように、日常生活から歯が不要にぶつからないことが大切です。顎のぶつかり合いは、歯の噛み合わせの接触面にのみならず、歯の側面に及ぶこともあり、歯ぐきが痛くなったりします。
(2017年12月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)