iPS細胞移植で合併症

 他人のiPS細胞から育てた網膜の細胞を目の難病である加齢黄斑変性の患者に移植する臨床研究で、網膜がむくむといった合併症が発生しました。iPS細胞を用いた再生医療の臨床研究で、手術が必要な合併症が起きたのは初めてです。網膜剥離の移植手術を受けた70代の男性患者は、網膜の上に新たに膜ができ、4カ月後に網膜浮腫と呼ぶ網膜がむくむ症状が出ました。患者は薬物治療で改善しなかったため、膜を除去しています。iPS細胞由来の網膜細胞を移植する際に散らばった細胞の一部が膜を作った可能性が高いとされています。
 網膜の下に注射器で細胞を含む液を移植するが、手術中に一部が網膜の上にあふれ出たそうです。そのため移植した細胞の問題というより手術法上の問題とされています。海外で実施している胚性幹細胞(ES細胞)を用いた網膜の再生医療でも、同じ合併症が見られています。現時点で、ステロイド剤で抑えきれない拒絶反応や移植細胞のがん化の問題は起こっていません。移植したiPS細胞ではなく、網膜の手術自体が原因で浮腫が生じる可能性も否定できません。細胞の移植が手術を必要とする以上、浮腫などの合併症は生じうると思われます。

(2018年1月17日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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