面前DVとは、子どもの前で親が配偶者に暴力を振るうことです。面前DVは、2004年の児童虐待防止法改正で、心理的虐待にあたると明記されました。全国の警察が、2016年に児童相談所に面前DVの疑いを通告した件数は、2万4,998件(前年比48.7%増)で、年々増加しています。面前DVに遭う子どもが急増する一方で、子どもに与える影響は十分に知られていません。
面前DVを経験した子どもには、脳に器質的な変化が起こることが分かってきています。視覚野が小さくなり、記憶力や知能に悪影響を及ぼします。さらに、身体的虐待よりも、両親間の暴力に接した時の方が脳のダメージが大きく、トラウマ症状も深刻です。また面前DVを受けた子どもは、自己肯定感が低く、自分の価値が認められずに、非行に走るケースが多くなっています。良い大人のモデルもいないので、将来に対する希望や夢を持てず、引きこもりや自傷、依存に陥りやすくなります。このように面前DVに遭った子どもは、健全な発達や成長の機会が奪われています。顕在化していない圧倒的多数のDV家庭の親子を支援し、被害に遭った子どもの心理治療を早期に行えば、多くの犯罪は食い止められるはずです。
(2018年1月11日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)