裁量労働制について憶う

政府は、働き方改革の裁量労働制に関する法案の今国会への提出を断念しました。裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使で決めたみなし労働時間を基に賃金を支払う制度です。一般的には労働基準法に基づく法定労働時間である1日8時間働き、実際の労働時間が法定を超えると残業代が払われます。仕事の進め方や時間配分を自分で決められる労働者に適用できます。柔軟な働き方ができるとする意見がある一方で、長時間労働を助長するとの意見もあります。裁量労働制には専門業務型と企画業務型があります。専門型は研究開発職やシステムエンジニアなど、企画型は本社で経営の企画・立案などの業務に携わる人が対象です。
働き方改革関連法案は、残業時間を年720時間とする規制や勤務間インターバル導入の努力義務といった長時間労働の是正に、裁量労働制の拡大などの生産性向上の対策を組み合わせて構成しています。裁量労働制の対象拡大ぐらいやらないと世界標準から遅れるとの指摘もあります。このままでは時間にとらわれずに成果を重んじる働き方は一向に形にならず、企業だけでなく、能力のある働き手から不満が出るのは確実です。
一方、働き方改革法案に盛り込まれる脱時間給制度は、働いた時間でなく仕事の成果で労働者を評価する仕組みです。経営者にとっては労働時間の規制が免除され、労働時間ではなく成果と報酬を連動させて支払う制度です。裁量労働制と同様に労働規制を緩和することになり、深夜・休日手当の対象からも外れます。政府は裁量労働制を切り離すことにより、脱時間給を含めた働き方改革法案の今国会成立を確実にしたいと考えています。
労働時間ではなく、成果に対して賃金を支払う脱時間給制度などの働き方改革は、生産性向上のため必須の法案です。こうした政策提言無くして、わが国の長時間労働を是正することは困難です。裁量労働制を巡る不適切データ問題への批判はありますが、それは働き方改革の本質ではないように思われます。わが国の労働生産性は、諸外国に比べて大変低くなっています。生産性を向上させなければ、わが国の少子高齢化社会を乗り切って行くことはできません。

 

(2018年3月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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