医学部教育に憶う

厚生労働省は、医学生の臨床実習において実施できる医行為を見直すことにしています。医学生の時に経験することが望ましいと考えられる診察や治療などを明示することにしています。臨床実習の実際は、それぞれの医学部でその内容も期間も大いにばらつきがあります。医学部5年までに医学生にとって大切な臨床実習を早々に終え、6年の時は国試対策ばかりの座学を実施している医学部が多数を占めています。実地臨床においては、座学のみならず、患者との対応、診察、検査、治療などの臨床実習が極めて重要です。医学部6年の一年間にも及ぶ座学は、国家試験に合格するための勉学期間であり、この間に大学独自の国試対策を実施しています。先日、2018年の大学・医科大学の医師国家試験の合格率が発表されました。医学部にとっては、国試合格率の高さが一つの大学の評価につながっているからです。
この一年間の座学に、国試合格のための予備校の講師が医学教育にあたっているとある医学生から聞きました。国試合格のための受験テクニックを教わるというのです。その教え方は医学部の教員より優れているそうで、医学生もそうした状況を受け入れているようです。国試合格率の高さだけが、大学において必ずしも医師として優秀な学生を育てていることの証拠にはなりませんが、医学部の大切な一年間は国試対策に使われてしまっているのが現状です。しかも、予備校の講師に国家試験のための授業をさせている医学部の現状は看過できない事態です。
私達の時代は、一年間じっくり臨床実習をし、実習している間にそれぞれの科の勉強をし、国家試験のための勉強は、試験前の1~2ケ月だけでした。慶應義塾大学の場合は卒業試験もなく、それぞれの科の試験をパスすれば卒業することができました。他大学では何度も卒業試験を実施し、それに合格しなければ卒業できず、国家試験も受けることができません。医学の進歩に伴い、現在の国試では覚えなければならない知識は増えています。知識だけを問う現在の国試のあり方にも問題があるのかもしれません。医学にとって知識の集積だけが必要となれば、人でなくてもAIで済む問題です。医学の原点は、「病気を診ずして病人を診よ」です。このことを6年かけて教えるのが医学教育であると思います。こうした医学の教育の乱れが、医師のモラル低下にもつながっているのかもしれません。

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