わが国でもネットで得られた精液を利用して、子どもを持ちたいと考える独身女性が少なからず存在するとのことである。その際、手に入れた精液を注射器を用いて自分で腟内に注入する女性もいれば、ご主人の精液と偽って病院で人工授精をする女性もいるという。
米国のある一都市の精子バンクにおいては、一人の男性の精液を用いて150人の子どもが生まれたとの事態もおきているようである。一地域で150人の兄弟がいることになれば、近親婚も問題となるかもしれない。そういった事態を防止するため、現在、わが国のAIDでは1人のドナーから生まれる子どもは10人までに制限されている。また、母となった女性に生まれた子どもが父親は誰かと尋ねた時に、精子バンクから提供されたと答えることはできるだろうか。それを聞いた時の子どもの動揺は計り知れないものがある。まさにアイデンティティクライシスである。
(2013年9月13日 日経新聞web)
(吉村 やすのり)