日本産科婦人科学会はこれまで重篤な遺伝性疾患に限り、症例ごとに小委員会で審査し、その適否を決定してきた。10年以上も前より欧米においては、染色体異常や男女産み分けなどの着床前スクリーニング検査が導入されていたが、日本産科婦人科学会はこれを認めてこなかった。
一方では、去年3月より胎児の染色体異常を母体血で調べる出生前遺伝学的検査が導入され、陽性であったほとんどの症例で中絶がされていることも判明している。このような状況下で、中絶を避けるためにも着床前スクリーニングを希望するクライエントも多い。流産を繰り返す患者や医師からスクリーニングの導入の要望が高まっているが、これまでのデータではその科学的根拠はいまだ明確ではない。今後は適切な症例に対し、一定のプロトコールで前向き臨床研究をわが国でも実施することが必要となるであろう。科学的根拠があいまいなままで是非の論理的議論をしても無意味である。科学的有用性がなければ実施の必要性はなく、有用性があればその時初めて導入にあたっての議論が必要となる。
朝日新聞より
(吉村 やすのり)