最近研究論文のねつ造や改ざんの報道が相次いでいる。過去の研究不正の事例では、韓国ソウル大学の黄教授のヒトクローン胚によるES細胞の樹立に関する研究論文のねつ造が有名である。ねつ造の発覚により研究者が解雇されたり、免職処分を受けることは大きな問題ではないが、こうした研究不正により研究自体が遅れてしまうことが大問題である。
社会的にも反響の大きいと考える研究成果には投稿する前の慎重な検証が必要なことは言うまでもないことであるが、共同研究者がすべてのデータを把握することは必ずしも容易ではない。研究プロジェクトが大きければ大きいほど、困難になることが予想される。発表時には世紀の大発見ともてはやし大騒ぎをし、疑惑がもたれると一転、非難する報道や研究所の幹部の態度もいかがなものか?これまで研究論文は得られた研究成果が、研究者によって忠実に記載されているという性善説に従って判断されてきた。こうした改ざんや不正は、研究者本人の研究に対するphilosophy の揺らぎであり、性急に結果を求めようとする態勢にも問題がある。いずれにしてもSTAP細胞の存在は真実であってほしいと祈っている。もし真実であるとすれば、iPS細胞やES細胞より臨床上きわめて意義のある発見であると思う。
(2014年4月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)