医薬品は、アスピリンなど化学合成でつくる低分子から出発しました。現在の主流は、バイオ技術などを駆使する抗体医薬品などの高分子です。こうした抗体医薬品は高額で、医療財政を圧迫しています。一方、ペプチドを使った医薬品は、中間にあたる分子量を持つため中分子と呼ばれ、第3の創薬手法として注目を集めています。ペプチドはたんぱく質の断片で、アミノ酸が結合したものです。糖尿病治療薬に使われるインスリンもその一種です。通常のペプチドは口から摂取すると消化されてしまいますが、体内で分解されにくく、病気の原因になるたんぱく質にだけ強力にくっつく特殊ペプチドを製造できるようになっています。
がん細胞などの標的を狙い撃ちできる高分子並みの薬効を持ちつつ、化学合成で安価に大量生産できます。ペプチド医薬品は汎用性が高く、コストも低減できると期待されています。従来の手法では発見できなかった化合物を探すことができ、創薬期間も短縮できます。今後は中分子医薬品が、抗体医薬などの高分子領域を置き換え、巨大市場に成長することが確実視されています。
(2019年5月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)