HPVワクチンは、2013年4月に予防接種法に基づいて国の定期接種となりました。市町村が対象者である小学6年~高校1年の女子を対象に、個別に通知して接種を呼びかける積極的勧奨になっていました。しかし、健康被害を訴える人が相次ぎ、2カ月後に定期接種にしたまま積極的勧奨を中止してしまいました。
定期接種開始後、その接種率は7割前後に達していました。現在も多くの自治体が費用の全額を補助しており、希望する人は接種を受けられます。しかし、2016年に接種した人は対象者の0.3%にとどまっています。厚生労働省は昨年、ワクチンに関するリーフレットを改訂し、本人や保護者にワクチンの意義・効果と接種後に起こりえる症状について確認し、検討してくださいと呼びかけています。しかしリーフレットには、ワクチンを積極的に奨めていないことが記載されています。
明日6月14日で、厚生労働省が積極的勧奨を中止して6年になります。この間、ワクチン接種ががんの発症を減らせることを示唆する海外のみならず日本からも複数のデータが公表されてきています。大阪大学などのグループは、松山市での20歳女性への子宮頸がん検診の分析結果を報告しています。1991~1993年度に生まれ、ワクチンを受けていない7,872人のうち、前がん病変で最も進んだCIN3(高度異形成と上皮内がん)が7人(0.09%)発生していました。一方、ワクチンが導入されて79%が接種を受けた1994~1996年生まれの7,389人ではゼロでした。CIN3を防げれば、がんを減らせる可能性は高いと考えられています。
海外でも同様の結果が相次いで発表されています。男児も接種する豪州では、昨秋にワクチン接種と検診で、子宮頸がんになる人の割合を現在の10万人あたり7人から、2028年には4人未満に減らせるとしています。子宮頸がんは遠くないうちに撲滅できるとの見解も示されています。一方、日本での同様の割合は、10万人あたり約14人(2015年)で、患者は若い世代を中心に増加傾向にあります。
現在の世界の研究者のHPVワクチンに関するコンセンサスは、ワクチンの予防効果は確実性が高く、重い有害事象のリスクは高まらないとしています。わが国では、子宮頸がんになる人は年間1万人で、約2,800人が死亡しています。積極的勧奨の再開は、一刻の猶予も許されない状況にあります。
(2019年6月12日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)