日本人の平均寿命は戦後から伸び続け、2017年には男性81.1歳、女性87.3歳となりました。2015年に60歳の人の4分の1が95歳まで生きる計算で、その分生涯に必要なお金は増えることになります。一方、老後の資金の柱となる年金は、支え手となる現役世代の減少に応じて給付を自動的に抑制するルールが2004年に導入され、受け取り水準が減るのは必至です。
世帯構成の変化も顕著です。65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、高齢者のみの単身世帯の割合は26.4%、夫婦2人の世帯の割合は32.5%で、合わせて全体の6割近くを占めています。一方、3世代同居の割合は全体の11.0%まで低下しており、同居する子どもが親の面倒を見るというかつてのモデルはほぼ崩壊しています。
一方、金融広報中央委員会の2018年の調査によれば、世帯主が60代の世帯のうち、2,000万円以上の金融資産を持っているのは3割に満たない状況です。保有資産がゼロと回答した世帯も2割を超えています。年金など公的な支出で高齢者の支えを強化するには、増税や社会保険料の引き上げなどの負担増が避けて通れません。生活に余裕のない世帯への年金を確保するには、定年退職後も働ける環境を整備し、健康な人の年金支給開始年齢を遅らせるなどの工夫が必要となります。
平均寿命の延びや少子高齢化、世帯構成の変化などで、年金給付だけでは満足な水準の老後生活を送るのが困難になっているという厳しい現実があります。今の高齢者に対しても、将来の姿を見据え、運用も含めて資産の維持に努めていくべきだというメッセージを伝えることも大切です。この現実を国民一人一人が理解を示すことが必要であり、政府も現状に向き合った対応策を早急に考えるべきです。将来の子ども達に未曾有の苦しみを与えないためにも、これら対応策が消費増税のような国民に痛みを伴うものであっても、積極的に受け入れる姿勢が必要です。
(2019年6月13日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)