シニア世代の社会保障
シニア労働者では、非正規雇用が広がっています。65歳以上の雇用者について雇用形態をみると、非正規の職員・従業員は多く、かつ増加傾向にあります。総務省労働力調査によれば、2016年では正規の職員・従業員が99万人に対して、非正規の職員・従業員が301万人に達しています。役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は、75.3%となっています。
わが国では、年金、医療、介護の社会保障は、対象者は全員加入が義務付けられていますから、非正規雇用者も社会保障の恩恵にあずかれます。しかし、事業主負担保険料のある被用者保険には、非正規雇用者は加入できないため、本人負担のみの社会保障制度にしか入れません。その結果、年金では、本人負担分の少ない保険料しか納められないから、老後の年金給付も少なくなってしまいます。医療や介護では、事業主負担保険料がない分より多く保険料を支払わなければならないことになります。社会保障制度において、非正規雇用者は、正規雇用者に比べて冷遇されています。
非正規雇用が拡大すれば、シニア就労による保険料徴収拡大も望めなくなります。今の現役世代よりも恵まれた経済力を持つ高齢者は、多くみられます。わが国の家計の金融資産の65%は、60歳以上の人が保有しています。社会保障の従来の仕組みでは、現役世代や企業に負担させることで解決しようとしていますが、それでは世代間格差と非正規雇用化を助長するだけです。
より多く年金給付を受ける高齢者に、適正に所得税を納めてもらうことで、それを財源として年金給付の少ない高齢者を助ける方策が必要になります。働いている高齢者は、年金給付に与えられる公的年金等控除に加えて、給料に対して与えられる給与所得控除も併用できます。そのため、同じ課税前収入でも、給料しか稼いでいない現役世代よりも控除額が多くなって、所得税負担が軽くなります。年金収入で400万円以上得ている高所得者の控除は頭打ちにして、それ以上控除額が増えない形にすることで、高所得高齢者に現役並みの所得税負担を求めることができます。
(Wedge June 2019)
(吉村 やすのり)