厚生労働省は、患者が自分のかかりつけ医を任意で登録する制度の検討を始めています。診察料を月単位の定額として、過剰な医療の提供を抑えたり、かかりつけ医以外を受診する場合は、負担を上乗せして大病院の利用を減らすことも目的としています。身近なかかりつけ医が、効率的な治療や病気の早期発見にあたる仕組みを普及させ、医療費の伸びの抑制を狙っています。経済協力開発機構(OECD)によれば、1人が医療機関を受診する回数は英国の年5回、ドイツの年10回に対し、日本は年12.8回にのぼっています。受診回数の多さは医療費の伸びにつながります。
患者が登録したかかりつけ医を受診すると、診察料を月ごとに定額にします。かかりつけ医にとっては、料金が定額だと診察回数が多くなっても、受け取る報酬が増えないケースも想定されます。検査や投薬が過剰にならないような診療を促し、全体で医療費の伸びを抑制する効果が見込めます。患者にとっては、病院に行くたびに料金がかかる現状より割安になればメリットとなります。定期的に診察してもらうことで、病気の予防や早期発見も期待できます。登録を希望しない患者は、従来の医療費で受診できます。
かかりつけ医がいる医療機関以外を受診する場合は、患者の自己負担を上乗せします。軽症でも設備や専門医が充実した大学病院を受診する患者もおり、過剰な検査などを招きやすいため、大病院はかかりつけ医が紹介する流れを強めます。定額制は、糖尿病や認知症など複数の慢性疾患を持つ患者向けでは導入済みです。
欧州では、かかりつけ医が定着している国が多くなっています。英国では居住地域の診療所からかかりつけ医を選ぶ必要があり、かかりつけ医に行かないと大病院で治療は受けられません。日本では医師会がかかりつけ医の登録制に反対しています。患者が医療機関を自由に選べる原則が崩れる恐れがあり、診療所の経営を圧迫する懸念が強いためです。
(2019年6月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)