脳は神経細胞とグリア細胞、そして血管からできています。1,000億個以上ある神経細胞は、巨大な情報処理ネットワークを作り、電気信号によって記憶や思考を担っています。一方、神経細胞がうまく働くよう脳内環境を整えているのがグリア細胞です。アルツハイマー病に代表される認知症研究は、ここ20年脳にたまっていくアミロイドベータが神経細胞を損なう、というアミロイド仮説に基づき進んできています。
アルツハイマー病の治療研究は、脳の神経細胞に注目されてきましたが、今脳にあるもう一つのグリア細胞に目が向けられています。グリア細胞であるアストロサイトが、アミロイドベータを分解する酵素を分泌していることが発見されています。マウスやiPS細胞を使った実験で、老廃物となるたんぱく質のアミロイドベータの除去につながることが分かってきています。アミロイドベータがたまっていくことよりも、分解できなくなっていくことに問題があると考えられるようになっています。認知症をはじめとする脳研究は、これまで神経細胞に偏重してきています。アルツハイマー病の新薬開発に、グリア細胞の研究が新たな糸口になるかもしれません。
(2019年7月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)