現在、児童虐待が深刻化しています。札幌市で先月、母親と交際相手の男が2歳の女児を衰弱死させたとして、傷害と保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕されました。警察庁によると、全国の警察が昨年1年間、虐待により生命の危険があるなどの理由で緊急保護した子どもは過去最多の4,571人(前年比733人増)に上っています。また摘発した児童虐待事件は1,380件(242件増)、被害児童は1,394人(226人増)で、いずれも過去最多でした。子どもの自殺も、背景に虐待がないか調べる必要があります。学校でのいじめが原因とみられる場合も、家庭内の虐待が潜んでいる可能性があります。
欧州などでは、虐待や家庭内暴力を突き止め、再発防止を図るため、高齢者や子ども、女性などを法医学的な立場から診察する臨床法医学の分野が確立されています。保護者の虐待の否認に対しては、確かに法医学者が生体鑑定した医学的証拠を示すことが有効となります。わが国でも、小さな命を救う現場では、虐待を見逃さない法医学者による実効性のある取り組みが期待されます。
(2019年7月4日 読売新聞)
(吉村 やすのり)