脳や脊髄を対象にした体内に遺伝子を入れて病気を治す遺伝子治療の臨床試験(治験)計画が進んでいます。世界では脳への遺伝子治療薬が既に実用化しています。5月、米国でスイス製薬大手のノバルティスファーマの脊髄性筋萎縮症の新薬が承認されました。研究も海外が先行しています。1989年から2018年末の遺伝子治療の臨床研究は、世界で2,930件に達しています。脳などは創薬が難しいとされていますが、加えた遺伝子が働き続けることで、遺伝病でも長く効果が期待できると注目を集めています。脳には異物を防ぐ関門があり、創薬が難しいとされています。遺伝子治療に使う特殊なウイルスは、そこを通り抜けられます。脳の細胞に遺伝子を入れ、病気を抑える働きが長期間続く可能性があります。遺伝子の異常による難病などの画期的な治療法になるとされています。
日本の技術は、海外から20~30年遅れています。欧米では副作用で死者が出た後も、原因究明や安全な方法を探る地道な研究が続いています。一方、日本は慎重論が強まったほか、iPS細胞が登場して研究者が再生医療に流れてしまっています。
(2019年7月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)