最高裁は2015年12月に、夫婦別姓を認めない民法の規定が合憲か違憲かを巡る訴訟で、合憲とする判決を下しました。判決は一方で選択的夫婦別姓について、合理性がないと断ずるものではなく、国会で論じられるべきだと注文をつけています。しかし、国会の議論は停滞したままです。法務省は、1996年と2010年の2回にわたり、女性の社会進出に伴い姓を変えると不便や不利益があるなどとして、選択的夫婦別姓を導入する民法改正案を提言しています。しかし自民党などの保守派が、家族の絆を壊すとして反対し、国会提出に至っていません。
内閣府が昨年2月に発表した家族の法制に関する世論調査の結果では、選択的夫婦別姓制度の導入に向けた民法改正に、構わないと答えた人の割合は42.5%となり、反対の29.3%を大きく上回っています。夫婦同姓は明治時代の旧民法で規定され、現在の民法でも継承されています。中国では夫婦別姓が1950年に法律で認められ、米では結婚後も旧姓だけではなく新たな姓をも名乗れることができます。夫婦同姓を法律で定めたのは日本だけです。
政府は、国内外で旧姓による活動実績などがある場合は旅券で旧姓併記を認めています。一部の銀行では、結婚後の名義変更などの煩わしさを解消するため、口座での旧姓使用もできるようにし始めました。11月からは住民票やマイナンバーカードでも、届け出がある場合は旧姓併記が可能となります。しかし、選択的夫婦別姓を求める声が根強いのは、女性の社会進出が進んでいることが背景にあります。
結婚に伴い改姓するのは96%が女性で、女性に負担が注中しており、社会進出の障害になっているとの指摘もあります。妻が夫の姓を名乗りたくないというと説明を求められる状態は、女性にのみ説明責任が課せられるという差別構造とも思われます。通称使用は、根本的には女性を一人の人間として認めるものではないとの考えもあります。別姓が正当化できる社会にしていくことが大切です。いずれにしても選択的夫婦別姓については、国会で論じられるべき問題です。
(2019年7月18日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)