遺伝性がんの予防切除

細胞のがん化を防ぐBRCA1、2遺伝子に変異があり、高確率で乳がんと卵巣がんを発症する可能性があると、HBOCと診断されます。200~500人に1人が該当するとされています。女性が生涯で乳がんを発症する確率は9%ですが、BRCA1変異は46~87%、BRCA2変異は38~84%に上昇します。卵巣がんでは、女性全体の1%に対して、BRCA1変異は39~63%、BRCA2変異は16.5~27%に達します。このように、生まれつき特定の遺伝子変異を持つ人は、乳がんや卵巣がんを発症する可能性が高いことが分かっています。
HBOCと診断された場合、将来の発症を防ぐ方法として米国を中心に実施されているのが、健康な乳房と卵管・卵巣を予防的に切除するリスク低減手術です。しかし、この予防切除には公的医療保険が適用されません。患者の経済的負担が選択の妨げにならないようにと、日本乳癌学会やがん患者団体は、予防手術への公的医療保険の適用を求める要望書を厚生労働省に提出しています。適用対象は既に乳がんや卵巣がんを発症した人で、実現すれば自己負担は3割以下に抑えられます。
しかし、卵管、卵巣の摘出は出産ができなくなることを意味するため、予防切除をした乳房の1割で未発見のがんが見つかったという報告もあります。出産を望まない女性では、卵巣や卵管の予防切除は強く推奨されますが、出産ができなくなってしまいます。そのため、未婚女性に対する遺伝子検査は慎重であるべきで、十分な遺伝子カウンセリングが必要となります。

(2019年7月24日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

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