年間の手取り収入を世帯ごとに並べ、真ん中にあたる世帯の収入の半額を貧困線といいます。厚生労働省が公表している2015年の貧困線は、3人世帯で211万円、4人世帯では244万円です。この貧困線を下回る貧困世帯のうち、妻が無職で18歳未満の子どもがいる夫婦世帯が、貧困専業主婦世帯と定義されます。2016年時点で、専業主婦世帯の5.6%、約21万2千人が貧困専業主婦と推計されています。
貧困専業主婦は、教育にお金をかけることもできません。塾などの教育投資が不十分で子どもの学力が低くなれば、貧困が子どもに連鎖し格差が拡大します。収入が少ない世帯は無料または低料金で保育園を利用できます。貧困世帯の子どもは、保育園を利用したほうが健康状態も良くなり、就学後の学力も上がるという研究結果がいくつもあります。保育士が子育ての相談にのることで、親のしつけの質を高めるという効果も期待できます。
今の日本の制度は、所得税の配偶者控除や年金の第3号被保険者制度など、一見、専業主婦の方が有利なようにみえます。しかし実際は、女性が仕事をやめると、高卒では1億円、大卒では2億円もの生涯賃金を失うとの試算もあります。目先の利益にとらわれず、長期的な視点を持つことが重要です。今の日本社会は、少子高齢化で労働力が不足し、社会保障制度の維持も危うくなっています。配偶者控除など経済的地位が低い女性を守るために作られた制度が、皮肉にも女性を労働から遠ざけているのです。このような制度を改正し、女性も働いて社会保障の支え手が増えれば、女性が生きやすい社会にもつながると思います。
(吉村 やすのり)