厚生労働省は、年金を受け取り始める時期を、今の60~70歳から60~75歳まで拡大する制度改正案を示しています。繰り下げ受給は、年金の受け取り開始を遅らせると受給期間が短くなるぶん、毎月の年金額を増やす仕組みです。現状は1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ増やします。原則65歳となっている年金開始を70歳まで遅らせると、毎月の支給額は42%増えることになります。今後、受け取り開始年齢を75歳まで選べるようにする場合、今の増額率を据え置くと、75歳から年金をもらう人の年金額は、65歳で開始する人に比べて84%増える計算になります。
繰り下げ受給をした人の年金を増やすのは、何歳で年金を受給し始めても平均寿命までなら損得が生じないためです。しかし、70歳までの現行の増額率を0.7%と決めたのは2000年です。今は当時の平均寿命から男女とも3年程度延びています。繰り下げによる増額は一生続くので、長寿化にあわせて増額率を下げなければ、過剰給付になるリスクが生じることになります。
(2019年10月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)