内閣府が実施した抗菌薬などに関する世論調査の結果によれば、抗菌薬が風邪やインフルエンザなどの原因となるウイルスには効かないと正しく知っていたのは、37.8%にとどまっていました。抗菌薬は風邪に効果があるとの誤答が45.6%にのぼっています。この結果は、諸外国に比べてもかなり高率です。
風邪の9割以上はウイルスが原因で、細菌の増殖を抑える抗菌薬は効きません。この事実は、医学の世界では昔からの常識です。厚生労働省も風邪には使わないよう推奨しています。抗菌薬が風邪の重症化や細菌への二次感染を防ぐとされた時代もありました。しかし、依然として古い情報に基づいて診療している医師は少なくありません。
不要な抗菌薬を使うと、体内にいる細菌が耐性を持ち、抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が出現します。これが周囲の人に感染して広がると、本当に抗菌薬が必要な重症患者に、有効な治療法がなくなってしまいます。そもそも風邪は薬を飲まなくても自然に治る病気です。患者側も医師にむやみに抗菌薬の処方を求めないことが大切です。
(2019年12月12日 読売新聞)
(吉村 やすのり)