これからの社会と産婦人科医療―Ⅴ

社会との関わり
女性の生活習慣と健康を考えるとき、男性と最も異なる点として初経・妊娠・出産・閉経といった生殖現象を考慮に入れなければならない。これらの女性特有の変化が、その後のライフステージのヘルスケアに大きく影響を与える。それはagingという単なる時間軸ではなく、女性特有の生殖機能の変化を考慮しなければならない。心血管系疾患、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満といったメタボリックシンドローム、各種のがんなど、代表的な生活習慣病の発症にエストロゲンが深く関与している。こうした女性特有の内分泌状態の変化を考慮に入れたヘルスケアは、今後女性医学に精進した産婦人科医が中心的な役割を果たすべきである。
次世代の産出と少子化問題との関連で強調しなければならないことは、男女の生物学的な差異の論議を封じてはならないことである。これはあくまでも男女のからだの仕組みの差異を示しており、差別を意味するものではない。生命の維持や生殖に関する生物学的な仕組みは、種を超えて共通であることは冷厳な事実であり、再認識することが大切である。ヒトは動物と異なり予防医学の進歩により平均寿命の延長がみられているが、生殖年齢の延長を期することはできないのである。男女の差異を十分に理解した上で、個々の自律的な選択が尊重されるべきであることには贅言を要しないが、男女の差異と差別を混同し、男女平等の概念が論じられてはならない。こうした教育に担わるのが産婦人科医の責務なのである。

(吉村 やすのり)

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