厚生労働省の推計によれば、2019年の日本人の国内出生数が、86万4千人となることが分かりました。2016年に出生数が100万人を切り、わずか3年での90万人割れは、1899年の統計開始以来初めてで、少子化のスピードは想定以上です。しかも減少率は前年比5.92%であり、5%を超す減少率は1989年以来30年ぶりとなります。
新元号にあやかった令和婚や令和ベビーが期待されました。5月の婚姻件数の前年比2倍の増加はありましたが、通年では前年比0.59%減の58万3千組にとどまっています。少子化の大きな要因は、未婚者の増加です。その背景には若者の経済基盤の弱さ、仕事と子育ての両立の難しさなどがあります。女性が家事・育児をひとりで抱え込むワンオペによる負担も重くなってきています。正社員の夫と専業主婦の妻を前提とした昭和モデルの制度や文化が、現状に適応できなくなっています。若い世代に結婚して子どもを産み育てたいとする願望がなくなってきています。男女とも結婚や出産で失うものが多いと考えています。家族をもつことに不安をもっており、若い世代に家族形成からの逃亡現象が起きています。
今後は、若い世代が安定的な仕事を得られるよう就労支援をすることが大切となります。長時間労働を見直し、働く場所や時間の選択肢を増やすことも必要です。保育サービスを充実し、固定的な性別役割分担を解消し、女性が働きやすい職場環境を準備しなければなりません。介護など高齢者向けの対策は、目に見えやすく、票にもなります。若い世代やこれから生まれる子どもへの対策は、成果が出るのに時間がかかり、直ちに少子化を解消するような方法はありません。
長年の少子化で、そもそも親となる年代の人が年々減っています。結婚や出産を望むかはもちろん個人の選択です。婚外子が2%前後であるわが国の現状では、若いカップルが結婚しないで子どもをもつことは考えにくい状況にあります。出産率を上げるためには、事実婚のみならず未婚であっても、子どもを育てられるような支援が必要となります。いずれにしても、産み育てやすい環境を整え、希望出生率1.8につなげるのは政治の責任です。
(2019年12月25日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)